2026年03月03日
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Google・OpenAI従業員数百人が結集:競合他社Anthropicを支持した「We Will Not Be Divided」

Google・OpenAI従業員数百人が結集:競合他社Anthropicを支持した「We Will Not Be Divided」

「私たちは分断されない」

2026年2月、AI業界でちょっと信じがたいことが起きた。

GoogleとOpenAIの従業員数百人が連名で、競合他社であるAnthropicを支持する公開書簡を発表したのだ。書簡のタイトルは「We Will Not Be Divided(私たちは分断されない)」。TechCrunchやEngadgetなどが一斉に報じた。

ライバル企業の社員が別の会社の肩を持つ、なんて普通はあり得ない。でも今回はAIの安全性という一点が、企業の垣根を越えた連帯につながった。

なぜ今、Anthropicを支持するのか

書簡の背景にあるのは、Anthropicとアメリカのペンタゴンとのぶつかり合いだ。

最大2億ドルとされる国防総省との契約において、Anthropicは以下の2つの「レッドライン」を設けていた。

  • 国内大規模監視へのAI利用は認めない
  • 完全自律兵器(人間の判断なしに人を殺せる兵器)への利用も認めない

国防総省はこの条件を撤回するよう圧力をかけ、2026年2月27日17時01分(米東部時間)という期限を設定。応じなければ国防生産法の発動や「サプライチェーンリスク」指定も辞さないと通告した(Federal News Networkが詳報)。

従業員たちが声を上げた理由

Engadgetの報道によると、公開書簡への署名者は発表時点で450人超(うち約半数が実名)に達し、その後も増加した。

書簡でとくに強調されていたのが、ペンタゴンの戦術への批判だ。TechCrunchが伝えた趣旨によれば、ペンタゴンは「他社が先に折れるかもしれない」という恐怖を各社に植え付けることで、個別に交渉を有利に進めようとしていた。「みんなが互いの立場を知れば、その戦略は通じない」という思いが、書簡の動機になったようだ。

業界リーダーたちの反応

驚いたのは、競合企業のトップまで動いたことだ。

OpenAI CEO サム・アルトマン氏はCNBCのインタビューで「ペンタゴンが国防生産法を脅しに使うべきではないと個人的に思う」とコメント。Axiosの報道では、社内メモでも「AIは大規模監視や自律致死兵器に使われるべきでない」と明言したとされる。

OpenAI共同創業者(現SSI創業者)イリヤ・サツケヴァー氏はXに「Anthropicが屈服しなかったことは非常に良いことだし、OpenAIが同様のスタンスを取ったことも重要だ」と投稿した(The Hillなどが報道)。

トランプ政権の「前例なき」対応

Anthropicが期限に応じないと、事態は急展開した。

2026年2月27日、トランプ大統領はほとんどの連邦政府機関に対してAnthropicのAI技術使用を停止するよう指示(国防総省には6ヶ月の猶予)。Fortuneなどが報じている。

さらにヘグセス国防長官がAnthropicを「国家安全保障へのサプライチェーンリスク」に指定した。この指定は通常ファーウェイのような外国企業に使うもので、米国のAI企業への適用は各メディアが「異例」と伝えた。

Anthropic CEO ダリオ・アモデイ氏はCBSニュースのインタビューで「報復的かつ懲罰的(retaliatory and punitive)な行為だ」と反論。法廷で争う姿勢を明示した。

皮肉な結末

騒動が広がる中で、AnthropicのClaudeがApp Storeの無料アプリランキング首位に躍り出た(NBC Newsなどが報道)。騒動との直接の因果は不明だが、安全性を巡る話題への注目が集中したタイミングと重なる。

一方でOpenAIはAnthropicが退場した後、ペンタゴンと新たな契約を締結。アルトマン氏はAnthropicが求めていたのと同じ条件を盛り込んだと説明したが、「なぜAnthropicには認められなかったのか」という疑問は業界内でくすぶっている。

日本のAI開発にとって他人事じゃない

「AIの安全性 vs スピード」という対立は、海の向こうだけの話ではない。

日本のAI企業や開発者も、遅かれ早かれ「自社のAIをどこまで使わせるか」という問いに向き合うことになる。Anthropicの事例が示したのは、レッドラインを明示することが信頼を生む可能性があるという一点だ。ペナルティを受けながらもClaudeのダウンロードが急増した事実は、その仮説を裏付けているかもしれない。

「理念を守る = ビジネスのマイナス」という時代は、少し変わってきているのかもしれない。

まとめ

「私たちは分断されない」という言葉が、ライバル企業を超えてリアルに響いた出来事だった。

政府からの圧力、競合との競争、AI開発の急加速。そんな状況の中で、「AIを兵器化・監視装置化することへの拒絶」が一本の糸として複数の企業の人々をつないだ。裁判の行方も含め、この動きがAIガバナンスの議論に与える影響は、これから徐々に見えてくるだろう。


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